転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


75 何でそんなに?



「ごめんなさいね。みんなに詰め寄られて黙っていられなかったのよ」

 これは帰って来たお母さんの言葉。
 どうやら近所のおばさんたちとの集まりでお母さんの肌の話になったらしい。
 で、いくらなんでも自然とそんな状態になるはずがないから、その秘密はなんなの? って聞かれたんだって。

 最初の内はつい最近お父さんがイーノックカウに行ったから、その時に特別な化粧品か何かを買ってきたんだろうって言われてたらしいんだけど、ある人が、

「ちょっと待って。もしこんな劇的な肌の改善ができる化粧品が新しく発売されたとしたら、ずっと品切れしているだろうから、お土産として気軽に買えるはずないわ」

 って言った事で急展開。
 新発売じゃなく実は前から売られていた物を今回、やっと買って来る事ができたって言うのならいくらなんでも自分たちの耳に入ってるんじゃない? って言う話から、どこで手に入れたのかって半分つるし上げ状態で聞かれたもんだから、お母さんはその迫力に負けて僕に作ってもらったって話しちゃったんだってさ。

「でもただ肌が白くなってしわが消えただけだよね? それだけの事なのに何でそんなに……」

「ルディーン君、何を言ってるの? これは画期的な事なのよ!」

「そうよ。この薬があれば、在りし日のあの肌に戻る事が出来るのよ!」

「まさに若返りの薬! この薬の為なら魔族に魂を売ってもいいくらいだわ」

 僕がこの程度の事で何で? って聞こうとしたら、それを遮るかのようにおばさんたちに詰め寄られちゃって、そのあまりの凄い迫力に僕はブラウンボアが迫ってきた時の恐怖を思い出した。

 いや、今のおばさんたちはブラウンボアと戦った時に感じた突進の迫力よりも、もっと怖いかもしれない。
 それくらいの必死さが僕に伝わってきたんだ。

「ひゃあっ!」

 だから凄く怖くって、ついこんな声をあげちゃったんだよね。
 おまけにちょっとだけ涙も。

 いや、いくらなんでもこんな事では泣かないよ。
 ただちょっとだけ涙が出ただけ、うん、泣いてない! でも、そんな僕の様子を見たおばさんたちは、流石にちょっとやりすぎたと思ったのか、

「ごめんね、ルディーン君」

 って謝ってくれたんだ。

「うん。僕は大丈夫だからいいよ」

 だからそう言って許してあげたんだけど……でも謝りはしたものの、おばさんたちが帰る様子はまったくなし。
 ってことはやっぱり作んなきゃダメみたいだね。
 でもさぁ。

「お母さん、セリアナの実ってみんなに作れるくらい、いっぱい残ってるの?」

「あっ!」

 そう、さっきヒルダ姉ちゃんに言った通り、いくら作ってって言われても材料が無くちゃ作れないんだよね。
 だからお母さんに聞いてみたんだけど、寝込んだせいでみんなと一緒に飲めなかった僕の分が後1個残ってるだけみたい。
 それじゃあヒルダ姉ちゃん1人の分ならともかく、みんなの分なんて作れる筈がない。

「それじゃあお母さんにあげた分の半分しかできないもん、みんなの分なんて作れないよ」

「ちょっと待って、セリアナの実が肌の薬の材料なの?」

 僕の話を聞いて、こう聞き返してきたのはエルサさん。
 この間お父さんたちと一緒に森に連れて行ってくれたうちの1人で、クラウスさんの奥さんだ。

「うん、そうだよ。みんなが捨てちゃうって言う中の白い所が薬草みたいになってるから、それを使って作るポーションなんだ」

 それを聞いたおばさんたちはみんなびっくり。
 でもそれは当たり前かもしれないね。
 だってセリアナの実は村でこそ作っていないけどイーノックカウへ行けば露天で売られているくらい簡単に手に入るものなんだもん。
 そんなありふれたものを使えばおばさんたちが画期的とまで言うこの肌のかさかさが治るポーションができるって事を、何でみんな今まで気が付かなかったんだろうって思うだろうから。

 でも同時に困ってしまった。
 だってセリアナの実はこの村では作ってないし、この近くに自生もしてない。
 だから手に入れるには作っている村かイーノックカウに買いに行くしかないんだよね。

「ねぇルディーン、ジュースを取ってから日にちがたったものでは作れないの? それなら私たちが飲んだものがあるけど」

「さっきヒルダ姉ちゃんにも同じ事聞かれたけど、あの中の白い所は実に穴を開けるとすぐに悪くなっちゃうんだよね。だからジュースを出してすぐに作んないとあのポーションは出来ないんだ」

 それをすっかり落ち込んでしまったおばさんたち。
 でもそんな中でただ1人、エルサさんだけは違ったんだ。

「仕方ないわね。だんなにイーノックカウまで買いに行かせましょう。なに、クラウスなら今晩出発させれば明日の夕方には帰ってくるでしょ」

 えっと、ここに居る人全員分のセリアナの実を買いに行くって事は当然馬車だよね? だったら馬の休憩時間も合わせて片道7時間くらいかかるんだけど?
 それに明日の夕方って事はクラウスさんに寝ないで買って来てって言うつもりなの? それってすっごく大変じゃないか。

「クラウスさん、今日狩りに行ってるんだよね? なら疲れて帰ってくるんじゃないの?」

「大丈夫よ、クラウスは頑丈だから」

 えっと、そういう問題なんだろうか?

「でもでも、この間も牛乳を買いに行ったばっかりだよね? 馬車の移動っていっぱい揺れるからすっごく疲れるし、お尻も痛くなるから大変だよ? かわいそうだよ」

「大丈夫。そんな柔じゃないから」

 クラウスさん、ごめんなさい。
 僕が何を言ってもダメみたいだ。

 こうして本人が居ない所で、クラウスさんのイーノックカウ行きが決定した。



 次の日の夕方。

「本当に買ってきたんだ」

 僕の家の前にいたのは目の下に薄っすらとクマを作ったクラウスさんとニコニコ笑顔のエルサさん、そしてその後ろには近所のおばさんたちが並んでいる。
 そして庭にはイーノックカウで買ってきたセリアナの実がいっぱいつまった箱が幾つか積まれてたんだ。

「当然よ。ねぇルディーン君。これだけあれば全員分作れるわよね?」

「作れるけど、あれって作るのがとっても難しいから一日にそんなにいっぱい作れないよ。それにジュースもこんなにいっぱい飲めないし」

「そうなの? それじゃあルディーン君は無理をしなくてもいいからゆっくりと作ってくれればいいわ。私たちで受け取る順番を決めておくから」

 エルサさんは自分の旦那さんが買ってきたものだから一番最初に手に入れることが出来る。
 だからかなり余裕があるんだけど、その後ろにいたおばさんたちはこの僕たちの会話を聞いた途端一気に殺気立ってちょっと怖かった。
 でも流石に僕の前で喧嘩を始める様な事は無く、別の場所に移動して順番を決めるっていい残して帰って行ったんだ。

 因みにヒルダ姉ちゃんはと言うと、1個だけ残ってた僕のセリアナの実を使って作ったポーションを昨日の内に渡しておいたからこの集まりには参加してない。
 一つの実で作っただけだからお母さんにあげた分の半分くらいしかないけど、そんな一気に使っちゃうような物じゃないから次の買出しまでは持つと思うんだ。


 こうして僕の日課に肌のかさかさを取るクリームポーションを作ると言うのが加わった。
 これって油を抽出するのはそれ程大変じゃないけど、それをポーションにするのはかなり難しくて最初はかなりの時間が掛かったんだよね。
 でも、そんな難しい作業も毎日やっていればなれてくるし、なにより難しいだけあって錬金術のレベルが結構なスピードで上がるから数日もしたら流れ作業のように作れるようになったんだ。

 そして錬金術のレベルが上がった事によってもう一つ解った事が。
 このセリアナの白い果肉から取れる油に卵と蜂蜜を混ぜてポーションにすると、髪の毛を艶々にする効果があるらしい。
 でもさぁ、肌が白くなるだけであの大騒ぎだったのに、この上髪の毛まで綺麗になるポーションが作れるって解ったら大変だ。

「これは誰にもしゃべっちゃダメだ。絶対に秘密にしないと」

「ルディーンにいちゃ、なにがしみつなの? おしえて」

 クリームポーションを作りながらつい洩らしちゃった独り言に、可愛らしい声で返事が返ってきた。
 その声に僕が振り返ると、そこにいたのはスティナちゃん……とヒルダ姉ちゃん。

「ルディーン、一体何をしゃべっちゃいけないのかなぁ?」

 迫り来るヒルダ姉ちゃんの迫力に、僕が逆らうことなんて当然できるわけが無かったんだ。


 ボッチプレイヤーの冒険が完結したら、この作品は別の場所に投稿を開始します。
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